椅子張り用の生地とは

はじめに、椅子張りはその言葉通り、椅子に「生地」を張り付ける作業になります。椅子製作における完成工程であり、お客様に使われる状態にすることです。そのため、椅子用の生地は「張地」とよばれます。また、衣類やカーテンに使われる生地とは異なる特徴があります。

そもそも椅子は、食事、仕事や勉強、車両や美容室など使用目的や場所が多岐にわたります。そして、一度設置されたものは長い期間同じ場所で使われ続ける上、衣類の様に洗濯ができません。結果として、次のような問題が起きます。

  • 食事をこぼしたり、手垢や汗のよごれの付着
  • 衣服との摩擦による擦り切れやペットなどのひっかき傷
  • 日光による退色や、強度の負荷による破れなど

つまり、それらの問題に対応できる「機能が付随」する生地が必要になります。具体的な機能として、汚れがつきにくく拭き取りやすい加工や撥水加工・耐アルコール性および耐次亜塩素酸性・抗菌性をもたせる加工などがあります。また、外観ではわかりにくいですが強度を持たせるために裏地が張られていることも特徴です。当社では各種メーカーによる物性試験の行われた椅子張り用の生地を使用しています。

生地の種類

張地は、大きくファブリック・ビニールレザー・本革の3種類があります。

ファブリックは、布地を意味します。布は糸を織ることによって製造され、使用する糸の太さや織り方の違いによって豊富な種類があります。ファブリックには布の特性にみられる温かみや柔らかい手触りが好みの方にはおすすめで、近年人気が高まっています。また、織り目の美しさや光沢感がある生地は、他の生地にはない高級感を感じます。

ファブリックのお手入れは、基本的には水で濡らした布巾をかたく絞り優しく汚れを落とします。シミがついた場合には、水でうすめた中性洗剤を少量つけ、軽く叩くように汚れを落とします。

ビニールレザーは、材料にPVC(ポリ塩化ビニル)やPU(ポリウレタン)を使用して人工的に作られた素材です。塩ビフィルムや繊維材料などの片面に塩ビ樹脂溶液(ゾル)を塗布して熱乾燥処理する加工方法で作られています。

水や汚れ・薬剤耐性に強いため多くの機能性生地があります。色や模様が非常に豊富なため、ファブリックや革にはないデザインのものも容易に作ることができます。人工皮革(ソフトレザー)と言われる生地もこのジャンルに含まれます。見た目や質感が革に似せてあるだけではなくビニールレザーの特徴も備えているので手入れが楽になるなど多くのメリットがあります。

一方、柔軟性や通気性が他の生地より劣るため、硬さや湿度が高いところではべたつきが気になるときがあります。また、表面のコーティングか経年劣化で硬化したり、ははがれてくると表面がボロボロになります。PUレザーの場合は加水分解で表面の樹脂が剥離するなど耐久性では他の生地に劣るところもあります。

本革は、動物の皮を材料に鞣し加工をした生地になります。生地としては、高級なものになります。肌触りがよく、通気性がよいので蒸れにくい特徴があります。また、手入れは必要ですが非常に耐久性に優れます。

使用する革は、なめし作業後の加工によっても種類があります。

表面に加工を施さない「ヌメ革」、仕上げにオイルを塗った「オイルレザー」、染料を染み込ませて色付けする「染料仕上げ」、表面に顔料を塗って仕上げた「顔料仕上げ」などの種類があります。

そもそも、天然皮革は牛が成長していく間に付いた傷やスポット穴(メンジ)・しわがどうしても存在します。従来から、高価な家具などの商品に傷があると、『新品の状態で傷があるなんて。。。』と多くの方が考えます。そう言った要望に応えるため椅子張り用の革には顔料仕上げが多く使われます。他にも顔料仕上げの革は、本革独特の風合いは薄れますが、製品自体の色の振れが少ないことや、水分や汚れに強いことが特徴です。